その日も懲りずに、ペイターズで女性のプロフィールを物色していた。
そこで目に留まったのが、金髪ギャル風の20歳。
はい、好き。
完全にオレのどストライクである。
ただし。
ここでメイン写真だけを見て興奮するほど、今のオレは甘くない。
なぜなら、これまで盛大な失敗を何度も繰り返してきたからだ。
人は失敗から学ぶ。
踏まれて、転んで、それでも立ち上がる。
そうして強くなったオレは、女性のプロフィールを見るときに、いくつもの確認事項を自分に課すようになっていた。
全身のシルエットが分かる写真はあるか?
OK。
サブ写真にちゃんと載っている。
バストを不自然に強調してアピールしていないか?
していない。
体型欄も「標準」。
よし。
さらにプロフィールを読み込む。
今年度に上京してきたばかりで、こちらでの生活にはまだ慣れていないらしい。
今のところ、オレが得た情報に怪しいところはない。
むしろ感じる。
この子、当たりの匂いがする。
早速メッセージを送ってみた。
少し間は空いたものの、翌日返信が来た。
ご丁寧なメッセージありがとうございます!
プロフィール拝見しましたが、誠実そうな雰囲気が出てらっしゃいますね。
一度お会いしたいです!
お。
返信内容もかなり好感触じゃね?
気を良くしたオレは早速アポ取りに入り、翌週の午前中、大宮でお茶することになった。
今回のオレは浮かれない
そして待ち合わせ当日。
向かっている途中で彼女からメッセージが届いた。
ちょっと早く着いたので、カフェの前にいますね。
ほう。
早めに到着して待っている。
メッセージも丁寧。
そして、まだ一度も条件の金額を自分から言ってこない。
経験上、これはかなりの当たりパターンである。
……が。
まだ浮かれない。
そう。
失敗を次に活かせる男。
それがオレ。
確かにここまでは好印象だが、分かるのはあくまで性格や内面の一部だけ。
ここで勝手に、
「絶対かわいい!」
「これは当たりだ!」
と美女を想像してはいけない。
期待値を上げない。
実物を見るまでは何も信じない。
それこそが、数々の犠牲を払ってようやくたどり着いた今回の勝ちパターンなのだ。
そんなことを自分に言い聞かせながら、待ち合わせのカフェへ急いだ。
すると店の前に一人の女性が立っている。
たぶん、あの子だ。
ん?
モデルか?
長身で、スラッとした脚が伸びている。
タイトなジーンズがめちゃくちゃ似合ってる。
近づいて顔を確認する。
間違いない。
この子だ。
「こんにちは!」
声をかけると、それまで少し不安そうにうつむいていた彼女が顔を上げた。
そして、最高の笑顔。
「こんにちは!太助さんですか?今日はありがとうございます!」
……。
めちゃくちゃ可愛いじゃん。
なんだよ。
もっと早く言ってくれよ。
マジで?
ぜーったいこの子と定期の約束する!
まだカフェにも入っていないのに、そう決意してしまうくらいの美女だった。
20歳美容師「あおい」
二人でカフェに入り、カウンター席に座った。
名前は「あおい」。
20歳で美容師をしているという。
韓国アイドルが好きだったり、美容の話をしたり、
「いずれは自分のお店を持ちたいんですよ」
なんて将来の話もしてくれる。
若いのにちゃんと目標もあるんだな。
受け答えも明るいし、よく笑う。
何よりかわいい。
うん。
やっぱり当たりだわ。
……と思っていたのだが。
しばらく話しているうちに、一つだけ気になることが出てきた。
あれ?
なんか会話、あんまり噛み合わなくないか?
最初にそう思ったのは、アイドルの話をしていたときだった。
あおいが言う。
「夏にアイドルイベントがあって行きたいんですけど、一人だと行きづらいんですよね」
「ひょっとしてTIF?」
「え!?知ってるんですか?そうですそうです!まさか大人の男性でこのイベント知ってる人いるなんて思わなかった笑」
おお。
まさかの共通の話題。
「知ってるよ!オレの推しも3日間全部ステージ出るからさ。さすがに一人じゃ行けないよなーなんて思ってたとこ笑」
「すごい笑 あのイベントいっぱいアイドル出ますもんね!」
これは話が合うじゃん。
しかも、お互い一人だと行きづらい。
なら話は早い。
「じゃあさ、チケット買ってあげるから一緒に行く?」
するとあおい。
「私その日程、友達と旅行行くことになってて行けないんですよ!」
……。
ズコー!!!
一人だと行きづらいって言うてたやろー!!
危うく、おいでやす小田ばりのツッコミを入れそうになった。
いやいや。
まあまあまあ。
これはパパ活の顔合わせだからね。
まさかアイドルの話にパパ側がここまで乗ってくるとは思ってなかったんだろう。
オレと二人でイベントに行く流れをギリギリで回避するため、旅行というカードを切った可能性もある。
うん。
そういうことにしておこう。
なんか毎回、持ち上げてから落とされる
しばらくして、今度はあおいがこんな話を始めた。
「なんか、都内の電車って乗り換えとか分かりづらくないですか?」
「あー、そうなんだよ!池袋とか迷路と一緒だよ笑」
するとあおい。
「私、自転車通勤で電車乗らないんですよね」
……。
分かりづらいんちゃうんかい!!
持ち上げて落とすのやめー!
再びオレの中のおいでやす小田が顔をのぞかせる。
なんなんだろう。
別に変なことを言っているわけじゃない。
悪気もまったくないんだと思う。
でも、こっちが話題に乗った瞬間、
スパッ!
と切られる。
会話ってリズムじゃないですか。
どちらかというと、オレはそのリズムを作るのはうまいほうだという自信がある。
昔、ガルバの女の子から、
「なんか……女慣れしててムカつく笑」
という最上級のお世辞をいただいたこともある。
そんなオレが、今日はまったくペースをつかめない。
盛り上がりそうになる。
切られる。
別の話題で盛り上がりそうになる。
また切られる。
なんだこれ。
そんなことを脳内で考えながら一人でテンパっていると、あおいが口を開いた。
「太助さんは今日、この後なんか予定あるんですか??」
……。
はい来ました。
これまでの経験上、顔合わせでこの質問。
大人の関係OKの流れね。
よし。
いいでしょう。
手当もはずんじゃう。
だって可愛いもの。
「ううん。今日は何もないよ。オレももうちょっと一緒にいたいから、静かなところに移動しよ!」
するとあおい。
「私この後、新宿でネイルの予定入れてるんですよ!もう今のネイル剥げてきちゃってて笑」
……。
…………。
そしたらね。
そのさ、さっきのセリフは絶対言っちゃダメなやつだよ。
まあ、法律で決まってはいないよ?
「このあと予定あるんですか?」って聞いた人が、そのあと予定入れてちゃいけないなんて法律はない。
ないけどさ。
男女のお話のときは、そのセリフはもうさ……。
ねえ。
また上げて落とされた。
今日何回目だよ。
プロフィールでは「会話のテンポ」までは分からない
結局、その日はLINEを交換して、
「また会おうね」
という口約束をして解散した。
かわいかった。
本当にかわいかった。
プロフィールも問題なし。
メッセージも丁寧。
待ち合わせにも早めに来る。
性格が悪いわけでもない。
でも。
疲れた。
さすがにコミュニケーション力までは、プロフィールと数通のメッセージじゃ分からないわ。
そんなことを考えながら帰りの電車に揺られていると、あおいからLINEが届いた。
今日はありがとうございました!
私、LINEするの好きなのでいろいろLINEでお話したいです。
迷惑だったりしないですか?
おー。
いいじゃん。
これは初めてのパターン。
ただのお礼LINEじゃなくて、日常的にLINEでやり取りしたいってことでしょ?
おじさん喜んじゃう。
こちらこそありがとう!
全然大丈夫だよ!LINEしよ!
ウキウキで返信。
すると、すぐにあおいから返ってきた。
嬉しいです!
ネイル終わったら太助さんに見てもらいたいです!
うんうん。
会話はまあまあ噛み合わなかったけど、若い子とこういうやり取りするのは楽しいよね。
そうだ。
今日これからネイルだもんね。
ネイル見たい!楽しみ!
そう返して、いったんLINEは終了。
そして夕方。
……LINEは来ない。
夜。
……来ない。
翌日。
……来ない。
ネイルの写真どころか、普通のLINEも来ない。
もういいや。
なんかさ。
疲れた。
可愛かったけど、精神が疲労してしまうわ。
そして翌週。
忘れたころに、突然あおいからLINEが届いた。
太助さん!
次いつごろ会えそうですかー?
…………。
いやネイル見せてくれる話どこいったんや!!
こうしてオレの「女性プロフィール確認項目」に、新しい項目が追加された。
写真は確認できる。
体型もある程度確認できる。
プロフィールやメッセージから、性格だって多少は想像できる。
でも、
会話のテンポだけは、実際に会ってみないと分からない。
また一つ勉強になりました。
ペイターズ。
奥が深い。


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